スイス研修語録01

04スイス

近自然工法について

近自然工法について~近自然工法とは景観生態学である。

景観とは

 地形、時間、空間、地質、及びそこに生育生息する動植物の複合体である。
約2億年前、4000mの標高を誇るBernerAlpen(ベルナーアルプス・・アイガー、メンヒ、ユングフラウ等)は海底にあった。アルプス造山運動により海底が隆起し、その後約2万年前のウルム氷期を経て氷河による浸食を受けて現在のようなU字谷の地形ができあがった。
→景観はいつも一定にない。時間とともに変化する。

立地とは

 景観の元をなすものである。基本としてその土地の地殻構成物質と気候により植生が決定し、植生により動物が生息可能となる。
近自然工法を計画するに当たっては、次の点に十分配慮すること。

  • その土地の歴史(景観が生成された過程)をよく知ること。
  • 「風」「水」の「流れ」をどのように扱うか。(防風林、水制工)

水制の歴史は人類有史以来からのものである。

 その形態は、当初は石などを流れの中に投げ入れることから始まった。我が国でもコンクリートが大量生産される以前は、水制工が設置されていた。水制だけで機能させるのではなく、護岸、根固め、水制の3つを併用して効果が出る。

水制工の設計法

1.まず水際の形を決める。fi x point(固定点)護岸の前に石を置く(巨石+小石)

  • 堆積作用の促進水
  • 制と水制の間に土砂を堆積させる。
  • 水制の背面に植生を発生させる。
  • 水制の端部より河岸に向けて約6゚の流れが発生する
  • 水制の間隔は L=2~4l(曲線部 2l 直線部 3~4l)
  • ※水は最短距離を流れることに注意すること。水制を下流へ向けてはいけない。

2.水の流れを決め、流れの接線方向に円弧を書く。

3.FIX POINT、水制を円弧に沿い設置する。

  • 河積を阻害しないこと(河川構造令の阻害率以内)
  • FIX POINTには洪水時に流されないものを置くこと。
  • 大きくなりすぎる場合にはアンカー留、ワイヤ締めを行う。
  • まずは川の流れを見ること。流れを操るのが目的であり、石の配置はその手段である。
  • 決して石の設置が目的ではない

○水制の種類(3種類)

  • 低水水制(上流へ向けて設置):護岸基礎前面部に土砂を堆積させる役割、土砂の動きをコントロールする
  • 護岸水制(上流へ向けて設置):土砂と高水をコントロールする役割
  • 高水水制(下流へ向ける):高水を水制に乗せない

この3つを巧みに組み合わせて使い分ける。
根固め工を非直線的に配置し、大きさもそれぞれ変える。
突出部に大きな石をおく(流速に抵抗できるもの)fi x point
やや小さいもの(流れに抵抗できるもの)
水制と水制の間に空石積みの法覆い工、法先工を設置。

Wolfbachにおいて(街のコンセプトとは?)

 他と同じものをそこに持ってくるのではなく、その街にあったものを作る。誰のための、何のための施設なのか。暗渠を掘りおこし、自然な形の小川へ戻す。流れを直線化せず、自然な変化をもたせる。

Shanzengrabenにおいて

 水の流れを「生かす」。ところどころに水流の変化点をつくる(瀬、淵、淀み)。通常の水位における水辺の境界点を多く設ける(流れの方向、速度、界面)。河床、河岸を守るためには、水際を守ること。流れに変化をつけて堆積作用を促進させる。コンクリート護岸等により直線化された流れは、流速が上がり法先洗掘、河床低下を招く。

川づくりは工事が終わっても永遠に終わらない。

無意識、非意識の中にさりげなく伝統の技を残す(石積みの技術など)。それが行政、研究者、専門家と一般の人の接点となる。

Usterにおいて

近自然工法により、失われた自然を取り戻す。「自然」とは何か。

 見た目の形状、魚族の遡上、蛍の舞う姿などが自然なのか?。一部の形態ではなく、自然(生態系)を丸ごと復活させること。そのためには、食物連鎖を作り上げる必要がある。河川における食物連鎖の底辺の生物を復活させ、その上位の生物が生息可能な環境をつくる。これがスイスにおける近自然河川工法である。これに対し、治水学的に土木工学(河川工学)は変化のない流れ、排水能力優先の全断面均一な流れ「等流」を作ってきた。

自然な流れには層がある。この流れの層を作り出す。

 加速流、減速流、等流などの複雑な流れにより浸食作用、堆積作用が起きる。川底の掃流土砂を水平分布させる、川底をゆっくり動かす流れ、水際に土砂を動かす流れを作る。複雑な流れの中で水深0~50cmの区域に水生植物を育成させる。そのための施設が水制である。

洪水時に水制などの施設による影響はないのか?

破堤のメカニズムを探ると、大きな原因として下の4つがあげられる。

  1. 越流による川裏法尻洗掘
  2. 法面からの漏水
  3. 川表法面の浸食
  4. 護岸法先の洗掘(これが最も多い)

 1~3については、洪水時に現象が起き始めてからでも、土嚢積み工などの水防工法により対応が可能であるが、4については対応が不可能なばかりでなく、最も危険な現象である。この護岸法先の洗掘を予防するため設置されるのが根固めであり、法先に土砂を堆積させる機能をもつのが水制である。
 護岸とは、1.根固め工 2.法留め工 3.法覆い工 の3つを包括したものであり、それぞれ個別に機能するものではない。かつての日本の伝統工法は、これらと水制を巧みに組み合わせて使い、流れをコントロールしてきた。しかし、この方法には技術と手間と費用がかかるため、近年のコンクリートとコンクリートブロックの普及により消滅した。しかしコンクリート護岸工は一見堅く強そうだが、足元を洗掘された場合に弱い。
 水制は主に低水時の流れに対し土砂の動きをコントロールするものであり、河床から数十㎝の高さがあれば十分に機能する。水制はわずか1つの石を置くだけでも良いのである。河川の阻害率を侵さぬ範囲で十分に設置が可能である。

水制設計の考え方、ポイント

  • 水制設置後の川幅は、水制の長さを除いたものとする。
  • 水制の設置により川の流れに生命を吹き込み、水の命、動きを取り戻す。
  • 水制を川下に向けて設置してはいけない。治水上大きな問題が生じる。(河岸へ向けて加速流が発生する)

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