試験対策をして望む
技術士試験の大きな山が筆記試験です。建設部門を例にとると合格率は10%台であり、これが難関試験といわれる所以でもあります。しかし、試験ですからしっかりと対策をして望めば、合格をつかみ取ることはできるのです。「敵を知り己を知れば百戦あやうからず」です。
筆記試験の概要
日本技術士会が発行している「技術士第二次試験受験申し込み案内」には、筆記試験についての概要と補足が記されています。
I 必須科目
試験内容:「技術部門」全般にわたる専門知識、応用能力、問題解決能力及び課題遂行能力に関するもの
- 専門知識:専門の技術分野の業務に必要で幅広く適用される原理等に関わる汎用的な専門知識
- 応用能力:これまでに習得した知識や経験に基づき、与えられた条件に合わせて、問題や課題を正しく認識し、必要な分析を行い、業務遂行手順や業務上留意すべき点、工夫を要する点等について説明できる能力
- 問題解決能力:社会的なニーズや技術の進歩に伴い、社会や技術における様々な状況から、複合的な問題や課題を把握し、社会的利益や技術的優位性などの多様な視点からの調査・分析を経て、問題解決のための課題とその遂行について論理的かつ合理的に説明できる能力
- 出題内容:現代社会が抱えている様々な問題について、「技術部門」全般に関わる基礎的なエンジニアリング問題としての観点から、多面的に課題を抽出して、その解決方法を提示し遂行していくための提案を問う
- 評価項目:技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち、専門的学識、問題解決、評価、技術者倫理、コミュニケーションの各項目
II 選択科目
1.試験内容:「選択科目」についての専門知識に関するもの
- 概念:「選択科目」における専門の技術分野の業務に必要で幅広く適用される原理等に関わる汎用的な専門知識
- 出題内容:「選択科目」における重要なキーワードや新技術等に対する専門知識を問う
- 評価項目:技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち、専門的学識、コミュニケーションの各項目
2.試験内容:「選択科目」についての応用能力に関するもの
- 概念:これまでに習得した知識や経験に基づき、与えられた条件に合わせて、問題や課題を正しく認識し、必要な分析を行い、業務遂行手順や業務上留意すべき点、工夫を要する点等について説明できる能力
- 出題内容:「選択科目」に関係する業務に関し、与えられた条件に合わせて、専門知識や実務経験に基づいて業務遂行手順が説明でき、業務上で留意すべき点や工夫を要する点等についての認識があるかどうかを問う
- 評価項目:技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち、専門的学識、マネジメント、リーダーシップ、コミュニケーションの各項目
III 選択科目
試験内容:「選択科目」についての問題解決能力及び課題遂行能力に関するもの
- 概念:社会的なニーズや技術の進歩に伴い、社会や技術における様々な状況から、複合的な問題や課題を把握し、社会的利益や技術的優位性などの多様な視点からの調査・分析を経て、問題解決のための課題とその遂行について論理的かつ合理的に説明できる能力
- 出題内容:社会的なニーズや技術の進歩に伴う様々な状況において生じているエンジニアリング問題を対象として、「選択科目」に関わる観点から課題の抽出を行い、多様な視点からの分析によって問題解決のための手法を提示して、その遂行方策について提示できるかを問う。
- 評価項目:技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち、専門的学識、問題解決、評価、コミュニケーションの各項目
出典:令和3年度技術士第二次試験受験申し込み案内 P7-P8
これまたお腹いっぱいになりそうな内容ですが、筆記試験の各科目において何を確認したいのか、そのために具体的にどのようなことが出題され、どのように評価を行うのかが明確に示されています。受験申し込み案内は、ついつい「出願書類に書かないといけないこと」や、「申し込みの期限はいつまでか」、「受験費用がいくらでどこに振り込めばいいのか」の部分に目がいってしまいがちですが、筆記試験の解答を作成するうえで、この評価項目の部分をしっかり意識するのとしないのとではかなりの差がうまれるものと考えます。同時に、日本技術士会が定義する「コンピテンシー」についてもしっかり理解しておく必要があります。
試験科目別の対策
筆記試験では、各試験科目において問われていることをしっかりと読み解いて、それについて的確に答えなければなりません。したがって筆記試験対策(勉強)をするにあたっては、専門知識の蓄積も必要ですが、問いの主旨を理解したうえで、筋道を立てて解答を組み立てる訓練が必要です(日常の業務で、客先や関係者の問いに対してきちんとした回答ができている方なら大丈夫でしょう)。インプットだけでなくアウトプットが非常に重要です。まだ十分でないと思う方も、ぜひ技術士受験を機会に論理的な思考回路を整えてください。
技術士試験は、手書きでの論述式試験です。600字詰め解答用紙に、午前中は3枚、午後は6枚、合計9枚書かなくてはなりません。時間が限られているため、大幅な書き直しは不可能です。指定時間内に、題意を正確に読みとり解答の大筋を決め、試験官にわかりやすく伝わるように書く必要があります。科学技術の専門知識だけでなく、コミュニケーション力(文章での伝達能力、つまりは国語力)が問われていることも忘れないでください。筆記試験の準備においては、「手書き」で文章を作成する練習も十分に行っておきましょう。
I 必須科目
「技術部門」全般に関することであり、例えば「建設部門」であれば、専門科目の「土」「コンクリート」「道路」などについての個別技術事項ではなく、建設部門の全科目で考慮すべき汎用的な事項(生産性向上、担い手確保、災害対策など)、よりマクロな視点でのインフラに関する総合的な事項(インフラの計画・設計、調達・整備、運用・維持、廃棄 ほか)などについて、その社会的背景を踏まえての解決策を問う内容となります。
最近の出題傾向(建設部門)
令和3年度
- 建設廃棄物に関する循環型社会の構築
- 激甚化、頻発化する風水害対策
令和2年度
- 中小建設業の担い手確保
- 社会インフラの戦略的メンテナンス
令和元年度
- 建設分野における生産性向上
- 想定を超える大規模災害対策
それ以前
- 防災減災社会の構築
- 低炭素社会の構築
- 自然共生社会、生物多様性の保全
- 循環型社会の形成
- 社会資本の急速な老朽化を踏まえた社会資本整備のあり方
- 建設産業の活力回復
- 海外での社会資本整備の取り組み
- ICT化進展による技術の高度化、細分化対策
参考になる資料
必須科目では、国の施策に関係するものが多く含まれます。社会的トピックとなったこと(災害、事故、不正など大きな出来事)、新たな技術や制度、国際的・社会的な変化、国内産業・社会構造の変化などに対して、各省庁独自の施策や、複数省庁横断的な施策を実施しています。これらの最新情報を入手し、その背景も含めて理解しておきましょう。
- 国土交通白書
- 国土交通省HP ”総合政策 -「トピック」「新着情報」”
- 国交省施策に関連する他省庁等の施策(経済産業省、内閣府、官邸各種本部・会議ほか)
国土交通白書は、当年度版の発行が技術士筆記試験の後になると思いますので、前年度版を参考にするといいでしょう(発行年のトピックが説明されている「第I部」を主に、具体施策となる「第II部」を副に勉強する)。ただし単に中身を暗記するのではなく、施策を打ち出している背景(施策が必要な原因や、日本社会および国際社会の状況)を理解し、施策により何を対策(推進あるいは防止)しようとしているのか、理解しておく必要があります。施策ごとのキーワードフレーズ(例:MaaS、インフラメンテナンス2.0、水防災意識社会、国土交通データプラットフォーム など)と、その背景や目的、関連用語などを覚えておくといいでしょう。
勉強方法
必須科目では、「問題」の分析と「課題」の把握、そして「遂行」について、「リスク」や「技術者倫理」・「社会の持続可能性」を踏まえた解答を行う必要があり、作成するには、次のような論理展開が必要です。
- 問題分析(示されたテーマにおいて、現状とその原因を把握分析する)
- 課題抽出(問題解決のために、何をすべきか提示する。考えた理由も必ず示す。課題は複数示すこと。)
- 課題解決策の提示(提示した課題の1つに対する具体的な解決策を複数示す)
- リスク対策などの提示(具体策の効果や、懸念事項への対応策を示す)
- 技術者倫理、持続可能性の観点から必要な要件を記述(技術者倫理は公益確保の観点で説明する)
答案作成においては、次のようにまとめるといいでしょう。
- 課題提案(課題の個別説明部分で、問題分析と提案理由の説明をする):1枚程度
- 課題解決策の提示:1枚程度
- リスク対策などの提示:1/2枚
- 技術者倫理、持続可能性の観点から必要な要件:1/2枚
2019年以降の出題に対する大まかな解答フローは上記のようになります。必須科目の筆記試験では「丸暗記」は絶対に通用しませんので、出題「テーマ」に対する「問題(原因)」「課題(解決の方向性)」「具体策」「リスク」などを、それぞれ「ワンフレーズのキーワード」として関連付けて整理する練習をしておきましょう。試験制度が変わって間もないのですが、もしかしたら傾向が変わり切り口も変わるかもしれません。仮に出題傾向が変わった場合でも、この練習は役に立つはずです。
練習には、SUKIYAKI塾で推奨している「骨子表」の作成が非常に有効です。表に整理することで思考の流れを追いかけやすくなり、思考の矛盾(飛躍や循環、重複)を発見しやすくなります。私も筆記試験受験時には、試験会場で問題用紙の空欄に簡単な骨子表を作成し、論理の組立がおかしくないか確認したうえで解答用紙に記述するようにしていました。
II 選択科目
II-1問題
II-1問題は、選択科目の専門知識に関するものであり、単純に知識を問う内容です。従って、選択科目での基本的な技術的な事項(例:コンクリートの劣化機構の説明、コンクリートの非破壊検査の手法、地すべり対策工法の区分と具体的な工法など)をしっかりと勉強しておく必要があります。解答用紙枚数は1枚しかないので、見だし部分で簡単な説明を行い、あとは箇条書きで記述するような方法でも十分対応できます。
II-2問題
II-2問題は、出題において指定された現地条件(作業条件や地盤条件などの図示や、構造物の形状寸法などの数値を明示したものが多い)での、調査・設計・施工計画策定を行ううえでの作業手順や留意点、関係者との調整方策等を問うものです。
現地条件などからリスクを洗い出したうえで、業務手順を示したり、関係者との調整方策を示す必要があり、選択科目において相応の業務経験がないと満足な解答が示せないと思うかもしれません。しかし業務手順は調査・設計にせよ施工にせよ、ある程度は標準化されたものがありますし、日経コンストラクションなどの「技術士試験対策」記事にも解答事例が示されていますので、一定水準までは机上の試験勉強でもカバーできるのではないでしょうか。
但し、令和3年度試験「施工計画、施工設備及び積算」科目のように、立場を指定されている設問(受注者の担当責任者の立場で解答せよ)もありますので、そうでない職種(発注者や設計者)の方が受験する場合には「立場を仮想」するしかありません。利害関係調整も含めて、日頃から多面的な観点で業務遂行を捉えておく必要があるでしょう。
参考になる資料
- 国土交通省や外郭団体等の施策・技術に関する資料
- 雑誌・専門誌(日経コンストラクション、土木学会誌など)
- 示方書等(コンクリート標準示方書、道路土工指針など)
- 専門書(コンクリート関係、廃棄物関係、調達関係)
- WebサイトのICT関連記事
III 選択科目
エンジニアリング問題を対象として、「選択科目」における観点から、複合的な問題や課題を把握し、論理的かつ合理的な解決策を問う内容となります。思考過程や記述スタイルは、「I必須科目」と似通っており、必須科目問題の選択科目版と捉えてもよいでしょう。但し、必須科目の「部門全般」的な視点ではなく、「選択科目」での技術的な視点で解答しなければ合格に至ることはできません。
参考になる資料
- I 必須科目と同じ
- II 選択科目と同じ
勉強方法
設問の構成スタイルは「必須科目」とほぼ同様ですが、設問が3問で終わっており、技術者倫理や社会の持続可能性についての問いはありません。従って、解決策やそのリスク対策についての記述内容を、「選択科目」の観点で充実させる必要があると考えます。3枚の解答用紙は「課題」で1枚、「複数の解決策」に1から1・1/3枚まで、「リスクと対策」に残りを使うという配分を想定してください。
解答内容は「I必須科目」の解答構成スタイルに、「II選択科目」で勉強する専門知識で肉付けをするイメージですが、専門知識は基礎的なものだけでは不十分です。新技術や社会問題化している事案が設問に含まれることが多いため、選択科目におけるこれらの動向や、専門技術を活用した対応策については必ず確認し理解しておく必要があります。
設問では「〇〇の専門技術者の立場で」、「専門技術を踏まえて」と明示されますので、一般的な内容にならないように注意してください。論理展開は次のようになります。
- 問題分析(示されたテーマにおいて、現状とその原因を把握分析する)
- 課題抽出(問題解決のために、選択科目の観点で何をすべきか提示する。考えた理由も必ず示す。課題は複数示せという場合が多い。)
- 課題解決策の提示(提示した課題の1つに対し、選択科目の観点で具体的な解決策を複数示す)
- リスク対策などの提示(具体策の効果や、懸念事項への対応策を示す)
答案作成においては、次のようにまとめるといいでしょう。
- 課題提案(課題の個別説明部分で、問題分析と提案理由の説明をする):1枚程度
- 課題解決策の提示:1枚~1・1/3枚程度
- リスク対策などの提示:残り(2/3枚~1枚)
勉強(解答構成の練習)には、「ワンフレーズキーワード化」と、「骨子表」が有効です。
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